初めに
今回は基礎編ということで、自動車業界でよく使う物理量と単位について解説します。
これらは覚えておかなくても、知りたくなった時に調べればいいと思っている人もいるかもしれませんが、自動車業界では技術的なDR(打合せ)の中で数値を概算する状況がよくあります。そのため、基本的な物理量と単位はしっかりと頭に入れておきましょう。
回転数とトルクの単位
〇回転数の単位
(rpm):
“revolutions per minute“の略で、1分間に何回転するかを表します。
自動車業界では最も一般的に用いられる回転数の単位です、自動車のタコメーターに表示されるのも(rpm)ですね。
(rad/sec):
1秒間に何rad(ラジアン)回転したかを表します。シミュレーションの中で使われることが多いです。
〇回転数の単位変換
1回転は2π(rad)に相当します。つまり(rpm)から(rad/sec)への変換は以下のようになります。
1(rpm)=2π/60(rad/sec)
次に1000(rpm)の単位を(rad/sec)に変換してみましょう。
1000(rpm)=1000×2π/60(rad/sec)=104.7(rad/sec)
ここで注目なのは(rpm)から(rad/sec)に変換すると、回転数の数値が1/10になる点です。
この関係性を覚えておくと、すぐに暗算できます。繰り返しますが、こういった感覚を持っておき瞬時に計算できることが現場では結構大切です。
(rpm)と(rad/sec)の単位を勘違いして、数値が10倍違ってたというのは自動車エンジニア失敗あるあるなので十分注意しましょう💦
〇トルクの単位
(Nm):
トルクの単位は、自動車業界ではこれ以外は見たことがありません。
これだけ押さえておけば良いでしょう。
出力とエネルギー
〇出力とは
出力の単位は(W)や(kW)で表され、1秒あたりにどれぐらいのエネルギーを出しているか(=仕事率)を表します。出力は自動車、エンジン、モータなどのパワーを表すだけではなく、電気・熱・ロスなどを同じ土俵で扱えるようになるのでMBD・シミュレーションを扱う上で非常に重要となります。ここからは自動車業界で頻繁に使われる出力の計算方法について説明します。
〇出力の計算
出力(W)=トルク(Nm)×回転数(rad/sec)
出力(W)=トルク(Nm)×回転数(rpm)×2π/60
トルク×回転数を計算することで出力となります。こちらはエンジンやモータまたタイヤの出力計算やロス計算をするために頻繁に用いられます。
出力(W)=駆動力(N)×車速(m/sec)
出力(W)=駆動力(N)×車速(km/h)/3.6
駆動力×車速を計算することで出力となります。こちらは自動車の出力計算をするために使われます。
合わせて、車速(km/h)を3.6で割ると(m/sec)になることも覚えておきましょう。
出力(W)=電圧(V)×電流(A)
電圧×電流を計算することで出力となります。こちらはモータ、インバータ、バッテリーの出力計算をするために使われます。
突然ですがここで問題です。1000(rpm),100(Nm)出しているモータの出力は何kWでしょうか?
この問題、自動車エンジニアなら瞬時に答えを出せるとかっこいいです。
回答はこちら
1000(rpm)×100(Nm)×2π/60/1000=10.47(kW)≒10(kW)
以上のように約10(kW)が答えです。1000(rpm),100(Nm)で10(kW)と覚えておくと回転数とトルクから瞬時に出力を計算できるようになるので是非覚えておきましょう。(例:2000rpm,200Nmで40kW)
〇エネルギーとは
物体が「仕事をする能力」のことを指します。つまり、何かを動かしたり、熱や光、音を発生させたりする力の源です。エネルギーは上で紹介した仕事に時間を掛け算することで求められます。
シミュレーションでは瞬間ごとの仕事を計算し、その時間トータルのエネルギーを計算することが多いので、自動車のシステムエンジニアリングにとって重要な要素です。
〇エネルギーの計算
自動車業界で主に使われるエネルギーの単位は(kJ)と(kWh)です。(kJ)はシミュレーションにおいてよく使われる単位であり、1kWを1秒間継続したときのエネルギーが1(kJ)です。またバッテリーの充電容量は(kWh)が使われ、1kWを1時間継続したときのエネルギーが1(kWh)となります。
最後に
今回は「物理量と単位の基礎編」として、自動車業界で頻繁に登場する回転数、トルク、出力、エネルギーについて、実務で役立つ視点から解説しました。これらの知識は、単なる暗記ではなく、現場で瞬時に判断したり、技術的な議論をスムーズに進めるための“言語”のようなものです。
特にDR(打合せ)やシミュレーションの場面では、数値感覚を持っているかどうかが信頼や説得力に直結します。今回紹介したような単位変換や計算式は、ぜひ自分の中で“感覚”として身につけておくと、エンジニアとしての武器になります。
次回は「加速性能計算編」を予定しています。車両の加速力をどうやって数値で評価するのか、どんなパラメータが影響するのか、実践的な視点で掘り下げていきますので、ぜひお楽しみに!
それでは、また次回のブログでお会いしましょう。
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