初めに
自動車の性能を語るうえで、「どれだけ速く走れるか」「どれだけ早く加速できるか」は欠かせない指標です。これらは単なるスペック表の数字ではなく、車両設計の根幹に関わる技術的要素となります。
車速や加速性能の計算は、エンジン・モータ出力、車両重量、ギヤ比、タイヤサイズなど、複数の要因が絡み合って決まります。設計段階でこれらを正確に把握することは、安全性、走行快適性の向上に直結します。
今回は、車速と加速性能の計算方法について、基本的な理論を分かりやすく解説していきます。自動車エンジニアを目指す方、現場で設計に携わる方、そしてクルマ好きな方にも役立つ内容を目指します。
自動車加速度の計算方法
〇基本の方程式
自動車加速度を計算するための基本の式は運動方程式です。高校の時に習いましたよね👀
F=ma
F:車に働く力
m:車両重量
a:自動車の加速度
式変形すると
a=F/m
となり、F:車に働く力とm:車両重量が分かれば、a:自動車の加速度が計算できることができます。
m:車両重量はカタログなどから分かるので、ここではF:車に働く力の計算方法について詳しく説明します。
〇F:車に働く力の計算方法(平坦路の場合)
平坦路で車に働く力について解説します。登反路になるとやや計算に+α必要になるので、登反路について別記事で紹介する予定です。平坦路で車に働く力は以下のようになります。
F=駆動力-空気抵抗-転がり抵抗
駆動力の計算式:動力元のトルク(Nm)×ギヤ比(-)÷タイヤ半径(m)
動力元(エンジン,モータ等)のトルク×ギヤ比をすることによってタイヤ軸でのトルク(Nm)となり、そこにタイヤ半径(m)を割ることで駆動力(N)を計算しています。
空気抵抗の計算式:0.5×空気抵抗係数(-)×前面投影面積(m²)×空気密度(kg/m³)×(車速(m/s))²
空気抵抗抵抗は自動車の形状によって決まる値で、新幹線のようにシュッとした形状の車では小さくなり、トラックのような形状の車では大きくなります。
前面投影面積は下図のように、車を全面から見たときの面積になります。どんなにシュッとした形状では面積が大きければ空気抵抗も大きいということです。空気抵抗係数と全面投影面積は車の形状から決まる値で、この値が空気抵抗に大きな影響を及ぼすのでプリウス等燃費重視の車両では燃費改善のために、車両形状により空気抵抗を下げる工夫をしています。
また空気抵抗には車速の2乗がかかっているので、車速の影響を大きく受けることも分かりますね。

参考URL:省燃費運転マニュアル(基礎知識編) | いすゞ自動車
転がり抵抗の計算式:車両重量(kg)×重力加速度(m/s2)×転がり抵抗係数(-)
まずはタイヤの転がり抵抗とは何かについて下図で説明します。車はゴムなので変形し、変形すると反発する力が生まれます。タイヤの回転方向側ではタイヤは大きく変形し大きな反発力を生み、逆側は変形量が小さいので反発力も小さいです。この不釣り合いによりタイヤの回転を妨げようとする力が発生し、これが転がり抵抗となります。

転がり抵抗係数は、タイヤの変形しにくさによって決まります。カチカチのタイヤは変形しにくいため、上で説明したタイヤの変形が起こりにくく反発力が発生しにくいので、転がり抵抗も小さくなるというわけですね。
転がり抵抗の値は以下サイトを参考にしてみてください。近年では、燃費改善のために転がり抵抗を減らすための低燃費タイヤの開発が積極的に行われています。

参考URL:低燃費タイヤ等ラベリング制度について – ヨコハマタイヤ [YOKOHAMA TIRE]
車速の計算方法
a=F/mの式から加速度は計算できるようになったはずなので、あとは加速度に時間をかけてあげれば車速は計算できますね。これはMatlabでも良いし、Excelでも計算可能です。
最後に
今回紹介した加速性能の計算方法は、単なる数式の暗記ではなく、車両の動きの本質を理解するためのツールです。駆動力、空気抵抗、転がり抵抗といった要素がどのように加速度に影響するかを把握することで、設計の意図や車両の挙動を論理的に説明できるようになります。
このような力は、設計現場での意思決定や、車両性能の最適化において非常に重要です。特に近年では、環境性能や快適性を両立させるために、物理的な理解に基づいた設計判断が求められています。
次回は燃費・電費について解説予定です。それでは、また次回のブログでお会いしましょう。
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