全個体電池ブーム再燃!の理由【QuantumScape・SolidPower】/Reasons for the resurgence of the all-solid-state battery boom

初めに

電気自動車の電池技術において昔から何度も話題に上がってきた全個体電池、皆さんご存じでしょうか?実用されれば電気自動車のゲームチェンジャーになると言われつつも、開発の難易度の高さから世に出るタイミングは後ろ倒しになり、人々の関心は失われつつありました。しかし、そういった中でも開発は着実に進んでおり、近年実用の芽が出つつあります。
自動車業界だけでなくロボット業界においても非常に大きなインパクトがある全個体電池は、エンジニア目線、投資家目線、消費者目線でも是非注目してもらいたいです。今回は全個体電池の嬉しさ、未来の社会での重要性、開発している企業の情報についてお伝えします。

全個体電池の嬉しさ

全個体電池で特に注目されているのは、
① エネルギー密度の高さ
② 充電時間の短さ
③ 安全性の高さ
の3つです。

この3つは、電気自動車、スマートフォン、ロボットなど、電池を使う製品の使い勝手を大きく向上させる「決定的なポイント」になります。


① エネルギー密度が高い

一回の充電で「より長く使える」電池になれる

全個体電池では、金属リチウムという高性能な材料を負極に使いやすくなります。
これは従来のリチウムイオン電池に使われる炭素系材料よりも、
10倍以上の電気をためる能力があります。

「同じ大きさのまま、よりたくさん電気をためられる」ことが最大の強みです。


② 充電が速い

短い時間で大きな電気を入れられる

固体電解質は、イオンが通りやすく、充電時の発熱が少ないという特性があります。
そのため、急速充電をしたときのダメージや安全性の低下が起きにくくなります。

その結果:

  • 自動車の充電が ガソリン給油に近づくスピード
  • 充電待ちのストレスが減る
  • インフラの負担も軽減される

「短時間で、しっかり充電できる」ことが実生活で大きなメリットになります。


③ 安全性が高い

燃えにくく、事故・炎上リスクが低い

従来の電池には「液体の電解液」が使われており、
それが 発火や爆発の原因になること がありました。

全個体電池では、この部分が 固体 になるため、

  • 燃えにくい
  • 高温でも安定
  • 外部衝撃に強い

という特長があります。

つまり、
より安心して使える電池になる ということです。

未来の社会での重要性

全個体電池は、
「より多く電気をためられて、早く充電できて、安全な電池」
という特長を持つため、今後の社会インフラに強い影響力を持ちます。

特に大きく関わるのが、次の2つの領域です。

  1. 電気自動車(EV)
  2. AI × 人型ロボット社会

電気自動車(EV)

電気自動車が今よりもっと普及するためには、
走行距離・充電時間・安全性 の改善が必要です。

全個体電池は、まさにこの3点を同時に解決できる技術なんです。

項目現在の電池の課題全個体電池がもたらす未来
航続距離400〜500km程度600〜1000km級 のEVが実現
充電時間急速充電でも数十分数分単位での充電 が現実味
安全性衝撃・高温で発火リスクあり燃えにくく高い安全性

つまり、全個体電池は

  • 「長距離を走れるEV」
  • 「すぐに充電できるEV」
  • 「より安全なEV」

を実現するためのキーテクノロジーです。

これが普及すれば、

  • 物流トラックやバスも電動化しやすくなる
  • ガソリンスタンド → 充電ステーション中心の社会に変化
  • 都市インフラ全体が電動化前提で設計される

というモビリティ社会の構造転換が起こります。

AI × 人型ロボット社会

近年、AIのソフトウェアが急速に発達してきました。では次に来るムーブは何か?
私はそれをAIのためのハードウェアの時代が来ると考えています。
これまでのAIは言うなれば人間でいう頭脳が開発されてきた状況です。AIの頭脳にはAIを活かす身体(ハードウェア)が大切になるというわけです。その代表各がロボット(人型ロボット)となります。

  • 介護・工場・建設現場で動く 人型ロボット
  • 自走して作業する 倉庫ロボット
  • 個人家庭に入る 生活サポートロボット

しかし、ここでの最大の課題は 「電池」 です。

人型ロボットに必要な電池の条件

必要な要素理由
軽くて大容量人のように長時間動けるため
急速充電できる充電待ち時間を最小化するため
高い安全性人の近くで使われるため

これは EVとまったく同じ要求です。

そして、それを満たせる電池が 全個体電池です。

つまり全個体電池は、
「未来のモビリティ」と「未来のAIロボット社会」
の両方を支える 基盤技術(インフラ技術)となる可能性があります。


全個体電池開発企業

主要な全個体電池開発企業を以下に示しました。各社車両OEMと提携して開発を進めています。
これらの企業は下記のロードマップに従い開発を進め、2027年以降への市場投入が計画されており、全個体電池の市場投入が現実味を増してきました。実際、株式市場でも全個体電池への期待感が再燃しており、QuantumScape・SolidPowerの株価はここ1年で5倍以上になっています!

項目QuantumScapeSolid Power出光興産(+日本勢)
アメリカ(カリフォルニア)アメリカ(コロラド)日本
技術アプローチセラミック電解質 + リチウム金属負極硫化物系電解質 + リチウム金属負極硫化物系電解質の量産技術に強み
形状多層パウチセル20〜100Ah級パウチセル主に固体電解質材料を供給、セルはパートナーと共同
主要パートナーVolkswagen
グループ
BMW / Fordトヨタ / パナソニック / 村田製作所 等

年度QuantumScapeSolid Power出光興産 / 日本勢
2024–2025多層セルの安定評価とOEM試験継続BMW向け評価セル提供・フィードバック固体電解質の量産試験設備稼働
2025–2026パイロット生産ライン本格稼働自動車向けセル技術の最終調整トヨタ・パナとの量産プロセス統合進行
2026–2027高級EV・試験車両への限定搭載が始まる可能性OEMでの先行搭載 or 実証車投入セルメーカー向け供給量が増加、量産体制強化
2027–2030商用EV搭載が拡大(高価格帯)部材・セル供給ビジネスとして市場に定着広範な車種向け採用開始、実用レベルの大量生産
2030年以降コスト低減と市場拡大フェーズへEV以外(航空・産業ロボット)にも展開社会インフラ用蓄電・ロボット用途へ本格展開

終わりに

全個体電池は、「より多くためられて、早く充電できて、安全な電池」です。
電気自動車の普及を加速させ、AI・人型ロボットが社会で当たり前に活躍するための基盤技術
となります。
開発スピードは企業により異なりますが、2027〜2030年に実用化の波が本格化すると見込まれているので、注目していきましょう!

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