第2回:電費計算の原理とシミュレーション方法【自動車工学】/Part 2: Principles of energy consumption calculation and simulation methods【Car/Automotive Engineering】

初めに

電気自動車の性能を語るうえで電費は大切な要素となります。このブログでは3回に分けて電費計算の基礎を解説しており、今回は第2回目となります。
電費計算を行う上で、バッテリー⇒インバータ⇒モータ⇒タイヤのエネルギーの流れを理解することは非常に重要なため、しっかり理解していきましょう。

第1回:電費とは何かと、エネルギーと走行距離からの電費計算方法

第2回:エネルギーの流れとタイヤ出力計算方法

第3回:モータ・インバータ・バッテリー効率を考慮した電費計算方法

エネルギーの流れ

電気自動車の電費計算方法を理解するために、電気自動車のエネルギーの流れを理解しましょう。エネルギーの流れは駆動と回生(減速)で異なることに注意が必要です。

駆動時のエネルギーの流れは下記グラフのように、まずバッテリーから取り出された電気エネルギーはインバータに入り、ここで直流電流からモータを動かすための交流電流に変換されます。次にインバータで作られた交流電流はモータを動かすことに使われるので、インバータのエネルギーはモータに移動したことになります。この時に、モータによって電気エネルギーから運動エネルギーへの変換がされていることには留意しましょう。最後にモータの運動エネルギーはタイヤに駆動力として受け渡され車を動かすことになります。

回生時は減速時の運動エネルギーを回収することになるので、エネルギーの流れる方向は逆になります。減速時の運動エネルギーはモータによって電気エネルギーに変換されます。モータで生み出される電気エネルギーは交流電流のため、バッテリーに充電できるようにインバータで直流電流に変換され、最終的にバッテリーに充電されます。

タイヤ出力の計算

エネルギーの流れを理解したら、次は実際のエネルギーを計算してみましょう。エネルギーの計算のために、出力計算を実際に仮の値を置いて計算します。電費計算のために出力計算が重要な理由はこちらで説明しているので、参考にしてください。
電費シミュレーションの原理と計算方法|自動車工学の基礎解説(第1回) | 現役エンジニアが教える! 自動車工学教室【MBD・システムエンジニアリング】

〇タイヤの出力計算
燃費・電費走行モードは車速×時間が決まっているので、車の走行状態=タイヤの出力が計算の起点となります。
車両諸元はTeslaモデルYの推定値をネットで探して下記のように設定しました。この車両諸元を用いて、車速60km/hにおいて0.2Gで加速しているときの出力を計算してみます。加速計算の基礎は下記記事で詳しく説明していて、今回はその応用となります。
【自動車工学】「自動車の加速性能を物理で解説|駆動力・抵抗・加速度の計算式」 | 現役エンジニアが教える! 自動車工学教室【MBD・システムエンジニアリング】

空気抵抗係数Cd:0.23
前面投影面積A:2.65(m2)
空気密度:1.225(kg/m³)
転がり抵抗係数Crr:0.03@4輪分
車重:2000kg

まずは必要駆動力の計算を行います。
必要駆動力F=加速抵抗+空気抵抗+転がり抵抗

加速抵抗=車重(kg)×加速度(m/s²)
=2000×0.2×9.81
=3924(N)
空気抵抗=0.5×空気抵抗係数(-)×前面投影面積(m²)×空気密度(kg/m³)
×(車速(m/s))²
=0.5×0.23×2.65×1.225×(60/3.6)²
=104(N)
転がり抵抗=車両重量(kg)×重力加速度(m/s2)×転がり抵抗係数(-)
=2000×9.81×0.03
=589(N)
必要駆動力=3924+104+589
=4616(N)

必要駆動力が計算出来ましたね。次はここから出力の計算を行います。

出力(kW)=駆動力(N)×車速(km/h)/3.6/1000
    =4616×60/3.6/1000
=77(kW)

これで駆動時のタイヤ出力計算が出来ましたね!続いて回生時の出力計算も行います。回生時は車速は60km/h、回生時は-0.2Gとして、駆動時とは加速度の正負のみ変えてみましょう。つまり加速抵抗の正負のみ変わることになり、以下のような計算となります。

必要駆動力F=加速抵抗+空気抵抗+転がり抵抗
      =-3924+104+589
=-3232(N)

出力(kW)=駆動力(N)×車速(km/h)/3.6/1000
    =-3232×60/3.6/1000
=-54(kW)

これで、駆動時と回生時の出力が計算出来ましたね。ここで注目してもらいたいのは、駆動に比較して回生時の出力の絶対値が減少している点です。これは駆動で増えた運動エネルギーを回生では全て回収することはできないということを表しています。

終わりに

今回はエネルギーの流れとタイヤ出力の計算方法について解説しました。タイヤ出力をベースにして、バッテリー、インバータ、モータ出力を計算し、実際に電費計算を行う方法について次回解説予定です。次回もお楽しみに!

Summary in English:

This article explains the energy flow and tire output concepts required for calculating the electricity consumption of electric vehicles. When driving, energy is transmitted from the battery via the inverter and motor to the tires, and when regenerating, energy flows in the opposite direction. Tire output is calculated from factors such as vehicle speed, acceleration, air resistance, and rolling resistance, and the absolute value of output differs between driving and regenerating, indicating that regeneration cannot fully recover the kinetic energy gained during driving. Next time, we will use this tire output as a basis to calculate electricity consumption, taking into account the efficiency of each component.

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